日本で農業が衰退しつつある要因としては、よく「他産業より経済的に不利である」ということが言われる。しかし、経済性のみを以って農業の衰退を語ることは、人間の性質を見落としていると言わざるを得ない。
その人間の性質とは、「自分の役割に誇りを持つこと」ではないだろうか?ある高齢の農業者は、「戦後は我々が国民の食糧を担っているという自負があった。だから大変でも頑張ろうという気持ちになった」と語っていた。体力的にきつくても経済的に豊かとは言えなくても、誇りが農業を続けさせたと言うことができよう。
しかし、食糧が溢れる時代となった現在では、多くの農業者にとって「作物を育てて出荷するだけ」「しかも安く買い叩かれる」という構造になってしまっている。これでは自分が農業を営んでいることに誇りを持ちにくい。事実、「子供には継がせたくない」という農業者も多い。この状態を放ったまま農業再建や自給率向上を謳っても、当事者にとってはお寒いだけである。
では、どうすれば良いか?一案として「生産者と消費者の交流の場」をもっと増やすことが挙げられる。近年「道の駅」などの産直の場が増えているのは、直接販売による経済的利益だけでなく、「自分の育てた作物に対して消費者からダイレクトな反応がある」こともあると思われる。これをもう一歩進めて「地場産の農作物を使った食堂」のようなものを設立すれば、農業者が「人に美味しく食べてもらうこと」を強く意識することになるのではないだろうか?それはその地域共同体における農業者の役割を明確にし、誇りを持たせるきっかけにならないだろうか?
少々単純に過ぎるかもしれないが、人の反応を実感できることが農業者のやりがいに繋がり、更には農業を中心とした地域の共同体が確立し得る。これこそが食料自給率の向上と地方の活性化に至る1つの道筋だと言えよう。
ただ、「経済性だけが農業問題ではない」とは言いながらも、現代社会において経済性を無視することはできない。自力で経営が成り立つことが理想だが、まだ農業や関連事業にとって国や地方自治体からの補助金はありがたい存在である。どうせ補助金を出すなら、上記のような仕組み作りに充てて欲しいものである。少なくとも「金はやるから米を作るな」というような趣旨の政策よりは有意義だと思われるが・・・。
以上、拙い文章ですが何かのきっかけになれば幸いです。
KY
